味覚について
おいしい食べ物を楽しんで食べることは、人生の大きな楽しみの一つです。そのために味覚は大切な役割を果たしています。味覚が感じられないと、食べることも、飲み込むことも不快に感じ、また腐った食べ物や毒をもつ食べ物の味がわからないと、生命にとっても危険です。
<味覚の働き>
- ①食べ物の味を感じ、食欲を刺激する。
- ②食べ物の味を弁別し、危険なものを食べないようにする。
- ③唾液を分泌させる。
- ④消化液の分泌を促し、消化を促進する。
- ⑤生体に必要な成分を含んだ食べ物を選択して摂取することを助ける。
味覚には、甘味・酸味・塩味・苦味・旨味の5つの基本味 があります。
舌の表面には花のつぼみのような形をした味蕾(みらい)があり、口の中に10,000個程度存在しています。その中に味細胞があります。味細胞は甘味、塩辛味、酸味、苦味、旨味の5種類の受容体をもち、細胞の寿命は10日間で活発にうまれかわっています。味細胞が神経につながっていて、私たちに味覚の感動を伝えてくれています。
味覚は年齢、性別、生活習慣、ストレスに大きく影響され、非常に個人差が大きいです。
<味覚の歴史>
現在では世界的にも認められている「旨味」ですが、以前はそうではありませんでした。旨味が認められるようになったのは2002年、舌に旨味の知覚に反応する受容体が見つかってからのことで、割と最近のことです。
海外、とくに西欧の人々は当初、旨味の存在に否定的な見解を示す人が多かったそう。
1908年、日本人科学者の池田菊苗博士が昆布だし汁の中から、その主要な味の成分として、アミノ酸の一種であるグルタミン酸を発見。論文の中で、それを「うま味」と命名しました。日本発の味になります。
2002年には、舌の味蕾(みらい)に「うま味」を感じる受容体があることが科学的にも実証され、これまでの基本味とされる「甘味」「酸味」「塩味」「苦味」に続いて、「うま味」が5番目の味覚として認定されることになりました。海外ではそのまま「UMAMI」と表記され、いまや世界共通語になっています。
うま味が基本味として認められて以来,欧米のマスコミは,うま味に関する話題をたびたび取り上げるようになりました。2007年12月のウオールストリートジャーナル紙は,うま味は欧米人にもなじみ深い食物(トマトケチャップ,チーズ,アンチョビ,エスカルゴなど)にも豊富に含まれていることを大きく報道しました。しかし日本発の味覚とあって、日本人は旨味に対して敏感で、AISSY株式会社が実施した味覚力調査では日本人の旨味正答率は71%だったのに対し、外国人の正答率は34%。実に2倍以上の差が出たそうです。
国連教育科学文化機関(ユネスコ)は,2013年12月にアゼルバイジャンで開いた政府間委員会で,日本政府が提案していた「和食;日本人の伝統的な食文化」の無形文化遺産への登録を認めました。このなかで,「うま味」を上手に使うことによって動物性油脂の少ない食生活を実現しており,日本人の長寿, 肥満防止に役立っていると強調されています。
今年はオリンピックが開催されませんでしたが、日本食のすばらしさが伝えられる機会が来ることを願うばかりです。
<参考文献>
・日本口腔外科学会(https://www.jsoms.or.jp)
- 栗原 堅三:世界のUMAMIになるまで.フォルマシア 2015 年 51 巻 2 号 95-98
- 井上 拓 Newsweek 2018/6/28